この道を行けば

モントリオールでの留学生活を気の向くままに・・・
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恐怖の数え方

今日は今年最初のスパーリングをこなした。去年までとは違い、大会出場やプロ転向を考える選手だけが集まるスパーリングだった。

学校の授業を途中で抜け出して、いったん家に帰り、昨日、付箋をしておいた本の一部を一読した。それは、藤田卯一郎という任侠界に大きな足跡を残した男が敵陣に刀一つで乗り込んでいき、啖呵をきるシーン。その場面を、何度も読み返しては今日のスパーリングを前に心に積もってくる恐怖を追い払おうとしていた。瞑想もし、とにかく自分を鼓舞しようとしていた。逆に言えば、そこまでしなければいけないほど俺はびびっていたのだ。無駄に拳を作っては息を止めて精神を統一しようと、そんなマヤカシじみたことを色々試みて俺は家を出てジムに向かった。

ただのスパーリングでここまでびびってしまう事にやはり自己嫌悪を感じないわけがない。2年前に、全日本選手権に出場したときでさへ、ここまでびびってはいなかった。俺が今所属しているジムは、入会の際、トレーニングやスパーリング中の事故に関してはジム側は一切の責任を負わず、死亡にいたる場合も自己責任とする、という宣誓書にサインをしなければいけない。選手や練習生たちを鼓舞するという点もあるのだろうけれど、やはり外国で格闘技をやるということに今更ながらに恐怖を感じている。毎回どんな相手がスパーリングに現れるのかは実際にジムに入るまで知ることはできず、どこの馬の骨とも知れないようなタトゥーだらけの毛もくじゃらが相手のときなど、「こいつは今までに何人の人を殺めてきたんだろう」と無駄な想像をしてしまい、それが俺の心に巣食う恐怖の導火線に火をつけるのだ。

ついぞ消えることのない恐怖心を常に心に抱いて、俺はジムに入り一礼をし、そして気持ちを切り替えていく。すでに道すがらべっとりと冷汗をかいてしまっている体には、カラカラと音を立てて回っている扇風機の風が憎いほど痛かった。

結果はそこまでびびっていたものに値するものだった。最初の2ラウンドはそれなりにパンチや蹴りの応酬を繰り返せたけれど、3ラウンド以降は急激に増やした体重とロードワーク不足かスタミナ切れとなり、最後は、相手のミドルキック一本で宙を舞いそして転倒した。自分ではもう立てなかった。90キロある俺の体を蹴りで完全に吹っ飛ばすのだ。俺はその事実に唖然とし、外人の怪力に恐怖を通り越したものを感じていた。

びびっていたら何もできないと言い聞かせながら、俺はジムを後にした。思い出しただけで震えてきそうなスパーリングが来週から毎日のように続くと思うと今から何も手につかなくなってくる。そんな自分に頭にきて、スパーリングの後、今度は別のジムに行き、ウェイトをした。キントレをして膨張した筋肉に今まで感じていた若干の満足感が今日は微塵もなく、外側だけ鍛えている自分に嫌気がさしていた。結局は外側を作ることと内側を育てることは同時進行でなければいけないのだけど、、、せっかくの週末、俺はやるせなさで一杯だった。

家に戻ると、ルームメートのうちの2人は床に転がっており、そのうちの一人の頭の周りの床には自分で吐いたものが汚く残っていた。またどこかの誰かは俺が帰ってきてからすでに2時間がたつけどずっとトイレでもどしている。そんな彼らを横目に、俺は鮮血まぶしい道着を洗濯機に突っ込んで、渦を巻くその中をただぼーっと見ていた。そしてそこに吸い込まれそうになっていた。トイレではけたたましい吐血音。家中にビールの空き瓶が転がっていた
現実は続いていた。いつまでも続いていた。
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この記事に対するコメント

外側を育てることと内側を育てることの同時進行。これよく分かるわ。

これはいつまでも消えない課題かもしれんな。

でも自分より強い相手に向かっていくことで、その答えはより近づいていく気がするけど。

今日のブログ結構好きじゃわ。
haru | 2006/01/15 10:48 AM
こっちに書いたんや!
なんかサスペンスを読んでるみたいやった。。あー恐い。。
megu | 2006/01/15 5:08 PM
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